自分の仕事

さて。絶賛発売中のアルバム「Stanley Clarke Band」が届きました。ジャズ・フュージョンかな。今日、尊敬するStanleyのアルバムを気楽な聴き方をする事に戸惑ひながらも、ジョギング中にも聴いてゐた。きちんと聴く積もりでは、まだ2回しか聴いてゐない。ベースはもちろんStanley Clarkeで、ピアノは上原ひろみさん、Ruslan Sirotaがキーボードだけれど、彼のオリジナル曲ではアコースティックピアノを弾いてゐる。1曲目のSoldierと云ふ曲。ドラムはRonald Brner, Jr.
同じアルバムで二人のピアニストの音を聴くことが出来るのは面白かった。やつぱり違ふ。ひろみさんのオリジナル曲Labyrinthも良かつたなあ。タイトルに曲が合つてゐる。ピアノの音が、前より表情豊かになつてゐる気がした。
CDレビューを書きたい訳ではないからザッと書くけれど、他にもゲストミュージシャンとしてサックス奏者や格好良いギターの音が聴ける。お世辞ではなくて、1枚を通して聴いて全然飽きないし、数少ないお気に入りになりさうな予感。
誰だか忘れたけれど、ジャズミュージシャンがインタビューで、「ファンに言はれて一番嬉しい事は何ですか?」と言ふ質問にかう答へてゐた。
「私がファンに言はれて嫌なのは、『あなたの演奏を聴いて、余りの素晴らしさに練習するのが嫌になりました。』と言はれることだ。そんな事があつて欲しくない。『あなたの演奏を聴いて、今すぐ練習したくなりました。』と言はれる事が喜びだ。だつてそれは、私の演奏がその人にインスピレーションを与へたつて言ふ事なんだから。」
とんでもない天才と身近に出合つてしまふと、「ああ、私なんてやる価値あるのかしら。止めれば良いんぢやないかしら。」と思ふ事がある。
当時とても深刻に悩んでをり、フレンチホルンの先生に相談した。
「俺は才能はない。ホルンは難しい楽器だし、ウォーミングアップに人一倍時間も掛かつてやつと人並みだ。他の人は10分前に来てサラッと本番をこなしちやふのを見て、クソーと思つた事はある。だけど、トロンボーンの友達と約束して、1時間でも2時間でも早く来てウォーミングアップやらうと決めてやつてた。今でも人より早く現場に行つて、ウォーミングアップして、さうではない人と同じ舞台にやつと立ててゐる。それで問題ない。」
「そんなの、惨めぢやないですか、なんか…」なんて、10代の頃の私は言つた。
「惨めなんかぢやない。練習しないで出来るとか、自然に出来たとか、変な夢はみない。人が1年掛けて出来ることに、3年掛からうが10年掛からうが関係ない。何年掛かつても、『自分が、自分の仕事が出来た』つて言ふ事が大事なんだから。」
正直、余りにも完成度の高い技術や自分にない想像力を見て、自分のやつてゐる事がくだらないのやうに思へて来ることもあるのだけれど、「自分の仕事」と言ふ言葉を思ひ出すと、世界の素晴らしさに怖気づく事なく、練習出来るのであつた。